太宰府市歴史的風致維持向上計画 高山市との比較で考察する
【歴史的風致とは】...
 我が国のまちには、城や神社、仏閣などの歴史上価値の高い建造物が、またその周辺には町家や武家屋敷などの歴史的な建造物が残されており、そこで工芸品の製造・販売や祭礼行事など、歴史と伝統を反映した人々の生活が営まれることにより、それぞれ地域固有の風情、情緒、たたずまいを醸し出しています。歴史まちづくり法(正式名称「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」)は、このような良好な環境(歴史的風致)を維持・向上させ後世に継承するために制定され、平成20年11月4日に施行となりました。 
  歴史まちづくり法第1条において、歴史的風致とは、地域固有の歴史及び伝統を反映した人々の活動と、その活動が行われる歴史上価値の高い建造物及びその周辺の市街地とが一体となって形成してきた良好な市街地の環境と定義されており、ハードとしての建造物と、ソフトとしての人々の活動をあわせた概念です。
 国土交通省による第1次認定は以下の5都市であった。    
  金沢市  金沢市歴史的風致維持向上計画  平成21年1月19日 
  高山市  高山市歴史的風致維持向上計画  平成21年1月19日 
  彦根市  彦根市歴史的風致維持向上計画  平成21年1月19日 
  萩  市  萩 市歴史的風致維持向上計画  平成21年1月19日 
  亀山市  亀山市歴史的風致維持向上計画  平成21年1月19日
 以下平成23年6月8日までに、26都市の歴史的風致維持向上計画が認定を受けています。
 
 今回太宰府市の視察調査を通じて、高山市の計画と太宰府市の計画及び推進体制を検証して見ました。
【高山市の歴史的風致維持向上計画」の概要】 
計画期間:平成20 年度〜平成24 年度
目 的
 高山市は、平成17 年2月に近隣9 町村と合併し、森林面積が92.5%を占める日本 一広い市域となった。合併後の高山市においては、広大な市域全体の一体感の醸成とともに、新たな地域資源、歴史遺産の活用による地域活性化が課題となっている。
そこで、「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」に定める「歴史的風致(良好な市街地環境)の維持及び向上」を進める本計画を策定し、地域活性化を推進することを目的とする。
役 割
 
高山市における歴史的風致とは、次の2 つの要素が一体となっている、その区域の環境のことをいう。
 @ 飛騨の長い歴史と伝統によって構築された歴史的建造物とその周辺市街地。
   例えば日下部家、吉島家、東山寺院群などと、城下町高山全体。
 A @で定義した場所における、歴史、伝統を反映した人々の活動。例えば、城下町区域
   で行われる祭礼行事、寺社関係年中行事、七夕、正月行事など民間
信仰関係の年
   中行事、伝統高山消防出初式、二
   十四日市などの活動。
 高山市では、上記@とAが一体となって歴史的な環境が維持されてきたが、本計画の役割は、今後もそれを維持、さらに向上させることにある。合併後の高山市域は広く、多種多様にわたる地区の歴史、文化性を持ち合わせているため、市域全
体を江戸時代の構成要素である「城下町高山」、「城下町からのびる5つの街道」、「街道沿いの農山村集落」といった大きな地域の構成要素(図1)としてとらえた計画とする。またその構成要素の中をさらに多種多様な歴史や伝統で類型化して群に集約する。
高山市の維持向上すべき
              歴史的風致
  高山市における歴史的風致は次の2つの要素が一体となっている、その区域の環境のことをいう。
 @飛騨の長い歴史と伝統によって構
   築された歴史的建造物とその周辺
   市街地。例えば日下部家、吉島
   家、 東山寺院群などと、城下町高
   山全体。
 Aそのそれぞれの場所における、歴
   史、伝統を反映した人々の活動。
   例えば、城下町区域で行われる祭礼行事、寺社関係年中行事、七夕、正月行事など
   民 間信仰関係の年中行事、伝統高山消防出初式、二十四日市などの活動。
 主な内容については以下のとおり
 飛騨匠の技術
  城下町高山区域全域に、重文日下部家、吉島家、伝建地区など伝統的な建造物が残
  り、現在もその技術を受け継ぐ建物を建てる市民の伝統が息づい  ている。
 ・屋台祭礼の場所
  城下町高山区域の西側には、屋台を中心とした自治組織「屋台組」があり、祭礼を中
  心に強い絆集団を形成している。
 ・裃の文化
  城下町高山区域の祭礼の場には、裃を着用して活動する場所と、着付の為に必要な
  町家の部屋や、着付法の伝承などが現在も残る。
 ・城下町高山
  城下町高山区域全域には、七夕飾などの年中行事などが、江戸時代から続く自治組
  織「組」を中心に伝承されている。
 ・東山寺院群
  城下町高山区域の東側には、寺院を中心に、地域の住民も参加して絵馬市などの年
  中行事が行なわれている。
重点区域における規制と事業概要
  ○高山市景観計画
  ■城下町景観重点区域    高さ制限13m(一部16m)
  ■中心商業景観重点区域   高さ制限22m
  ■風致地区         高さ制限8m又は10m
  ■景観計画区域       高さ制限22m
  ※景観計画(美しい景観と潤いのあるまちづくり条例)及び県風致地区条例により
    規制を実施している。
  城下町景観重点区域及び中心商業景観重点区域については、都市計画高度地区の
  決定も行っている。
  ○ハード事業
  ・拠点施設整備
   旧矢嶋邸・高山市郷土館内部に残る土蔵を歴史・美術展示施設として活用し、周遊
   ルート等の拠点施設として整備
  ・文化財を繋ぐ周遊ルートの整備@
   川沿い散策路、遊歩道、横丁などを整備し、重点区域内をめぐる周遊ルートを整備
  ・文化財を繋ぐ周遊ルートの整備A
   高山城跡(市、県文化財)高山城跡公園や遊歩道の眺望箇所整備
  ・下二之町大新町伝建地区(国選定伝建地区)
   無電柱化及び側溝修景等整備
  ○ソフト事業
  ・高山祭祭礼行列の復興
   活性化のための祭礼次第の整備・記録、衣装の整備
 以上のように、重点地域のハード事業とソフト事業を列挙し、特に祭礼の場としての重点地域の歴史的風致の維持向上を図っています。
【太宰府市の歴史的風致維持向上計画】の概要
計画期間:平成22 年度から平成31 年度まで
目 的
 
太宰府市には、歴史と伝統により築かれてきた建造物とその周辺の市街地があり、その場所で歴史、伝統を反映した人々の活動が行われている。これらが一体となって、本市を特徴付ける歴史的風致が形成されている。歴史まちづくり法第5条に基づく歴史的風致維持向上計画としての本計画を策定し、これらの歴史的風致を維持向上させることは、本市が目指す「歴史とみどり豊かな文化のまち」を実現することにつながる。
 同時に現在本市では、文化庁委託事業である「文化財総合的把握モデル事業」(平成20 〜 22年度)による歴史文化基本構想と、景観法に基づく景観計画の策定作業中である。今回策定する歴史的風致維持向上計画と合わせ、3つの計画を一体のものとして都市計画行政と文化財行政が共同してまちづくりを推進する体制を目指している。本計画を策定することにより太宰府市民遺産の育成のために必要な整備を行い、かつ支援していくとともに、景観まちづくり計画や歴史文化基本構想と連携し良好な市街地環境の保全創出や歴史的建造物の保存・活用を図ることで、太宰府市の歴史的風致を維持向上させることを目的とする。
 
太宰府市の維持向上すべき歴史的風致
 太宰府市は、大陸への門戸である玄海灘の近くながら、山々に囲まれた盆地状の地に、大宰府が設置されて以来1300年以上の歴史の中で、宝満山や四王寺山などの自然環境や大宰府関連史跡や太宰府天満宮とその門前などの歴史的環境が伝えられてきています。これらの環境と一体となって「太宰府天満宮神幸式」や「さいふまいり」など伝統を引き継いだ人々の営みが展開され、太宰府の歴史的風致を形成しています。
 太宰府天満宮神幸式における歴史的風致
 平安時代より続く太宰府天満宮の神幸式は、古代の大宰府条坊を引き継ぐ街路と菅原道真の配所である榎社を舞台に繰り広げられます。県の無形民俗文化財に指定されています
 太宰府天満宮門前の生活にみる歴史的風致
天満宮の門前には、江戸時代から続く歴史的建造物が残り、名物となっている梅ヶ枝餅を始め参詣者をもてなす生業が続いています。また、恵比寿まつりや県指定無形文化財指定の鬼すべなどが伝統的生活として受け継がれています。
 ・梅に関する歴史的風致
   「万葉集」梅花の宴、菅原道真にまつわる飛梅伝説など、梅との縁は深く、江戸時代以降梅を天満宮に献上し、植え、愛でる習慣は、厄除けの梅あげや市内いたる所への植樹に引き継がれています。
 さいふまいりにおける歴史的風致 
 さいふまいりは、江戸時代に太宰府参詣とともに周辺の名所旧跡を巡る遊山を兼ねた風習で、太宰府天満宮のほか、現在は史跡となっている都府楼跡(大宰府跡)、水城跡などを訪ねる伝統が続いています。
 ・農耕に関わる祭事にみる歴史的風致
   農耕に関わる祭事は、地域の神社で春籠りから神迎えの年間を通して行われ素朴な
  行事として地域ごとに受け継がれています。
 観世音寺の除夜の鐘」にみる歴史的風致
 観世音寺の除夜の鐘は寒い中人々が静かに集まり、国宝に指定されている梵鐘をひと打ちづつ撞いていく行事で古代の音色が観世音寺など歴史的建造物の間に響きます。
  宝満山における歴史的風致
  宝満山は古代より信仰される山で太宰府の重要なシンボルです。そこで展開される峰入りや大護摩供などの中世以来の修験儀式は多くの困難を乗り越えて伝えられる伝統行事です。
重点区域における施策と事業概要
 太宰府市では、市内どこでも歴史を感じられる屋根のない「太宰府市まるごと博物館」(まちぐるみ歴史公園)を進めています。
景観まちづくり計画や歴史文化基本構想と連携して、歴史的建造物などの保全・活用や伝統的活動の継承のためのソフト事業などを一体的に実施し、太宰府の歴史的風致を将来に伝えるまちづくりを推進します。
 【歴史的建造物の保存修理】
   天満宮門前の伝統家屋や市内に点在する歴史的建造物など太宰府の歴史的風致を
  形成している建造物の修理に助成を行い、良好な景観の形成と歴史的風致の維持向
  上を図ります。
 【水城跡・大野城跡の整備】
   さいふまいりの立寄り所である水城跡・大野城跡の修理・整備を行うことで「さいふま
  いりにおける歴史的風致」の維持向上を図ります。
 【観世音寺金堂の保存修理】
   古代から法灯が続き、さいふまいりの立寄り所として人々が訪れる観世音寺の保存
  修理を行うことで歴史的風致の維持及び向上を図ります。
 【幸ノ元溝尻水路の保存修理】
   門前のまち割りの骨格であり、天満宮社地と町場の境界を示す水路の調査を実施し
  、保存修理を行うことで歴史的景観の形成を図ります。
 【歴史的な通りのサイン整備】
   どんかん道、日田街道、参詣道、歴史の散歩道といった歴史的な通りに案内板や解
  説板などを整備することで回遊性の高いネットワークの形成を図ります。
 【無形の文化財の記録作成】
    無形文化財や無形民俗文化財についての調査や記録を行い、地域の伝統文化伝承
  への意識向上や担い手の育成などを図ります。
 【戒壇院山門等の保存修理】
    趣のあるたたずまいで来訪者の目に触れる戒壇院の山門、土塀、東門の保存修理
  を行うことで歴史的風致の維持及び向上を図ります.
  【景観形成に関する施策】
  ○景観計画 (平成22年度策定・条例施行)
   重点区域に包含される2つの景観育成地区を設定し、歴史的景観の保存、育成を図
   ります
  ○屋外広告物条例
   景観に調和した屋外広告物の規制を行います。
  ○高度地区の指定、見直し
   高度地区の新規指定や現在指定している規制の強化により良好な市街地環境の保
   全を図ります。
 
  太宰府市では、景観まちづくり計画や歴史文化基本構想と連携すると共に市民遺産活用計画とも連動し、計画を推進して行くことを前面に出し、コミュニティの再生や産業観光の振興を目指しています。
【両市の歴史的風地維持向上計画の比較】
 両市の計画の概要を見ました。それぞれの地域の特色を捉えた内容となっています。観光に力を注ぎ、町並み保存などで実績を積み上げてきた高山市と、今後新たな市民遺産活用計画とも連動して、まちづくりの中に歴史的風致維持向上の芽を育て、コミュニィの再生等にも力を注ぐ太宰府市の違いがおわかりいただけると思います。
 「歴史まちづくり法」に定める歴史的風致の定義が「地域固有の歴史及び伝統を反映した人々の活動と、その活動が行われる歴史上価値の高い建造物及びその周辺の市街地とが一体となって形成してきた良好な市街地の環境」ということであり、「ハードとしての建造物と、ソフトとしての人々の活動をあわせた概念」としていることから、それぞれの自治体では、地域固有の歴史と文化に根ざしたまちづくりを志向することになりますが、太宰府市はこうした面で工夫を凝らし、市民参加型、提案型とも言える市民遺産活用計画を盛り込んだことで、古いモノを残すという受け身の姿勢ばかりでなく、市民ぐるみで取り組める新機軸を打ち立てたことで、市民と共に歩む文化によるまちづくりの輪を広げたと言えます。すでに認定を受けた太宰府市市民遺産は以下のとおりです。








 
   認定市民遺産       主催団体           内    容      
   八朔の千灯明
 
    五条風の会   
 
天満宮に献灯する儀式
の保存と伝承
  太宰府の木うそ
 
  太宰府木うそ保存会
 
 天満宮の鷽替神事に参加者
  が持ち寄る木鷽の保存会 
四王寺山の太宰府町道
 
   四王寺山勉強会
 
  かつてあった道の整備と
      保存      
  芸術家冨永朝堂
 
    NPO法人
   歩かんね太宰府  
  地元の彫刻家冨永朝堂
  の作品を通じた町歩き  
 
 高山市については、長い間取り組んできた観光と伝統文化に関する取組の延長線上での計画ですが、どちらかというとまちなみ保存会や、文化財課、都市整備課、観光課、観光協会の取組に依存した形となっています。町屋再生や町屋活用といった面にも新たな活動の芽が出てきたように、市民との間にも協働の輪を広げることも必要な視点ではないかと感じたところです。
 又、これまでともすれば縦割りの弊害ばかりが目立った「都市計画・都市整備行政」と「文化・文化財行政」を一体として捉え、それを総合的なまちづくりへ繋げるといった発想の転換を位置づけた点で、今回の歴史まちづくり法は一歩踏み込んだものであり、地方自治体にとってもこれまで築きあげてきたまちづくりの方向性に、新たな一ページを加えられたものといえます。又、文化庁の所管する【歴史文化基本構想(「歴史文化遺産(文化財)保存・活用のための方針・方策」】との連動や整合性を図る計画が見受けられるのも頷けるところです。
 そうした面から改めて両市の計画に対する取組姿勢を、計画作成の目的と推進体制から見てみようと思います。
 
1.高山市の取組姿勢
 ・平成17 年2 月に近隣9 町村と合併し、森林面積が92.5%を占める日本一広い市域となっ
  た。合併後の高山市においては、広大な市域全体の一体感の醸成とともに、新たな地
  域資源、歴史遺産の活用による地域活性化が課題
 ・故に 「歴史的風致(良好な市街地環境)の維持及び向上」を進める本計 画を策定し、
  地域活性化を推進する。
 ・飛騨の長い歴史と伝統によって構築された歴史的建造物とその周辺市街地とその場
  所における、歴史、伝統を反映した人々の活動が一体となって歴史的な環境が維持
  されてきたが、本計画の役割は、今後もそれを維持、さらに向上させる。
 ・合併後の高山市域は広く、多種多様にわたる地区の歴史、文化性を持ち合わせている
  ため、市域全体を江戸時代の構成要素である「城下町高山」、「城下町からのびる
  5つの街道」、「街道沿いの農山村集落」といった大き な地域の構成要素(図1)と
  してとらえた計画とする
。またその構成要素の中をさらに多種多様な歴史や伝統で類
  型化して群に集約する。

としています。
 合併後のまちづくりに必要な歴史的風致に根ざしたまちづくりを導入する という点と、広大な市域にあっては重点地区とそれから伸びる主要5街道及 び街道沿いの農山村集落にも配慮した大きな構成要素とし、将来の構想の拡 大の余地を残しています。
  しかしながら、今回の計画をここまで大きなくくりとするには、五年間 の計画で良かったのか、構想としてはわかりますがそれでは今後どういった 方向性を持ってこの大きな構成要素をくくっていけるのか、上位にあってそ れらを規定するビジョンや構想づくりに進むのか、別の計画で手当をするの か等の疑問も残ったところです。
  ・推進体制については、以下のスキームを示しています。

2.太宰府市の取組姿勢
  ・歴史的風致を維持向上させることは、本市が目指す「歴史とみどり豊かな文化のまち」
   を実現することにつながる。
  ・文化庁委託事業である「文化財総合的把握モデル事業」(平成20 〜 22 年度)による
   歴史文化基本構想と、景観法に基づく景観計画の策定作業中である。今回策定する
   歴史的風致維持向上計画と合わせ、3つの計画を一体のものとして都市計画行政と文
   化財行政が共同してまちづくりを推進する体制を目指す。

 本計画を策定することにより太宰府市民遺産の育成のために必要な整備を行い、かつ
   支援していくとともに、景観まちづくり計画や歴史文化基 本構想と連携し良好な市街地
   環境の保全創出や歴史的建造物の保存・活 用を図ることで、太宰府市の歴史的風致
   を維持向上させる。

 としています。太宰府市で特徴的なことは太宰府市民遺産活用推進計画(歴史文化基本構想)と、太宰府市景観まちづくり計画並びに太宰府市歴史的風致維持向上計画を有機的に結合させている点です。
  (3つの計画による景観・歴史まちづくりの推進イメージは太宰府市の計画概要に提示)
  ・3つの計画の位置づけ
    [まちづくり事業]:歴史的風致維持向上計画
    [根     拠]:市民遺産活用推進計画
    [指     針]:景観まちづくり計画
  ・有機的に結びつける体制
     太宰府市歴史的風致維持向上協議会(法定協議会)
    太宰府市景観市民資産会議(太宰府の景観と市民遺産を守り育てる条例で位置
      づけられた、3つの計画を動かしていく市民、事業者及び行政の協働組織))
 等を設定し計画の実施体制を組んでいます。そこで改めて太宰府市市民遺産活用推進計画について見てみたいと思います。
  ・太宰府市民遺産活用推進計画について
   文化遺産を・見守る・保護する・育成する取組として平成23年策定。
主な役割
 文化遺産は、古代から現代まで各時代で培われ受け継がれてきた人々の生活の証であり、市民の大切な財産です。市民遺産活用推進計画は、これらの“文化遺産(モノ・コト)”、市民が“将来に伝えていきたい太宰府の物語”及び“育成していく活動”を合わせて太宰府市民遺産と定義し、育成していくための計画です。なお、文化遺産の調査や市民遺産の提案は、市民が主体的に行うことを基本とし、その成果は文化遺産情報及び市民遺産カルテとしてホームページ等で公開していきます。文化遺産は地域の歴史や地形の文脈を表すものであり、まちづくりの<根拠>として活用していきます。
計画の位置づけ
  平成17 年に策定された「文化財保存活用計画」を推進するもので す。太宰府市では、この保存活用計画と本計画の2つの計画をもって、 太宰府市歴史文化基本構想と位置づけます。都市計画マスタープラン、 緑の基本計画、環境基本計画と連携し、景観まちづくり計画や景観計 画、歴史的風致維持向上計画等との連動のもと、その具体化を目指し ます。
市民遺産活用推進計画のイメージと3計画連動のイメージ」を
   以下に提示しておきます。
 
 以上の通りです。
3計画が連動することで、
  @多様な主体との協働を実現し
  Aコムニィティの再生や生き甲斐づくりを実現する
  B産業と観光に振興を図る
 体制づくりを推進することが出来るとしています。
【考察のまとめ】
 伝建地区指定等での実績等で差のある高山市と太宰府市の取組姿勢等を比較しましたが、歴史まちづくり法の活用で新たなまちづくりへ進一歩を踏み出したところです。太宰府市の市民遺産活用推進計画の位置づけは、守り育てる市民遺産を市民遺産活用推進計画策定委員会が提案するとしており、文化遺産の調査や市民遺産の提案は、市民が主体的に行うことを基本とし、その成果は文化遺産情報及び市民遺産カルテで市民にも公表していく姿勢を取っています。
 高山市の計画におけるソフト事業については、・高山祭祭礼行列の復興や活性化のための祭礼次第の整備・記録、及び衣装の整備等で特徴を出していますが、太宰府市の取組は将来にわたって守り育てていく事業の選定にあたって、市民一人一人が大切に思うモノ・人・出来事と、これを将来に伝えていきたいと思う物語と、守る育てる活動に対して、多くの市民が納得したものと規定しているところに特徴があります。この考え方と歴史的風致維持向上計画を連動させたところが特徴であり、コミュニティの再生等と産業・観光の振興に結びつけているところがユニークです。
 計画期間も高山市の5年間なのに対し、10年間としじっくり取り組んでいく姿勢です。どちらかといえば「まちの博物館」 建設とそれに連動する周遊ルート整備に力点を置き、短期の整備計画を着実の実施する計画として重点地区整備を行った高山市とは対極にあるといえる計画となっています。
 歴史文化基本構想の扱いにも少し差が出ています。歴史文化基本構想については、高山市に置いてもその構想との整合性を図るとしていますが、基本構想そのものが文化庁主導の構想であり、高山市としてはこれから独自のモノを考えるとしている点で、文化や文化財を活用したまちづくりに、確固とした基盤を定められない点で少し及び腰であるのかと見えてしまいます。
 こうした点で高山市の文化と観光との位置づけを今後どうしていくのかに、将来を見据えたビジョンや構想・計画・条例のあり方が問われています
 今回の歴史的風致維持向上計画でも、将来を見据えたビジョン・構想の上に計画を立てたかの点でいえば、上手く事業認可の地固めをして事業成果を積み上げた点は評価できますが、「城下町からのびる5つの街道」と、「街道沿いの農山村集落」における具体的計画についてはどう包含していくのか、城下町高山の構成要素を拡大している点について今後の対応が問われるところです。
 ・文化とまちづくりの関係を規定した文化振興条例や振興計画の策定。
 ・町並み保存やまちづくりの方向性と観光の位置づけについては、町並み保存会や他の
  市民団体や行政との協働等についての構想づくり。
 ・まちづくりと観光との関係では、その社会的活動や経済的活動をどのように結びつけて
  いくか、その将来ビジョンをどう構築していくのか。
 ・維持向上計画でいう重点地区と他の農村集落等との産業振興への位置づけをどのよ
  うに拡大していくのか。
 ・そうした意味では新たに整備した「まちの博物館」の位置づけはこのままよいのか
等々、今後の対応が問われています。
        2011.11.08:中田清介