高山市のキャッシュフロー分析による財務状況
H28.11.19 中田清介
キャッシュフロー計算書とは
 財務省が財政融資資金の融資先である地方自治体の債務返済能力等を点検する為考案したもの。民間企業のキャッシュフロー計算書に近く、総務省の決算統計を組み替えることで作成出るものです。
 総務省が自治体に2018年3月末までに作成を求めている「統一的な基準による財務書類」に含まれる資金収支計算書も、ほぼ同じ考え方に基づくとされています。
 H27年6月15日の日経グローカルにもその特集が組まれており、H26年度決算に基づき初めて高山市のキャッシュフロー分析を試みました。本年度も昨年に倣い分析をしてみました。
 キャッシュフロー分析は、債務の償還確実性に絞った切り口から財務状況を見るのが特徴といわれます。4つの指標のうち行政経常収支比率積立金等月収倍率の2つで短期的な資金繰り状況を探り、実質債務月収倍率と債務償還可能年数の2つに行政経常収支比率も加えて長期的な債務償還能力を見ていくとされています。
 例年の10か年比較財政分析、財務諸表による分析等も含めて今後の「公共施設等総合管理計画」の策定に活かしていけたらと考えています。
高山市キャッシュフロー計算書(千円)
H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
行政活動の部
行政経常収入 43,565,506 43,552,257 43,118,351 43,744,281 43,628,120
地方税 14,017,390 13,783,817 13,637,884 13,468,772 13,387,991
地方消費税交付金 935,300 923,809 915,935 1,098,922 1,784,194
地方交付税 16,415,802 17,559,328 17,551,156 17,136,018 16,118,762
国庫支出金 3,507,383 3,039,060 2,957,077 3,998,139 4,124,838
都道府県支出金 2,354,963 2,378,671 2,330,972 2,533,562 2,798,668
その他 6,334,668 5,867,572 5,725,327 5,508,868 6,297,896
行政経常支出 28,135,653 27,964,836 27,777,776 29,207,699 28,808,771
人件費 7,340,613 7,047,550 6,869,461 7,203,096 6,834,743
物件費 6,065,773 5,887,884 6,040,187 6,114,028 5,985,890
扶助費 6,464,780 6,566,499 6,844,497 7,315,449 7,632,050
補助費等 3,727,391 3,772,183 3,439,575 3,153,432 3,637,730
繰出金(建設費以外) 3,065,948 3,129,584 3,127,756 3,334,190 3,545,797
支払利息 734,148 628,480 549,935 455,541 370,025
その他 737,000 932,656 906,365 1,631,963 802,536
行政経常収支 15,429,853 15,587,421 15,340,575 14,536,582 14,819,349
行政特別収入 148,903 251,085 140,221 161,449 1,671,482
行政特別支出 228,430 358,070 162,233 546,577 1,695,752
行政特別収支 △ 79,527 △ 106,985 △ 22,012 △ 385,128 △24270
行政収支 15,350,326 15,480,436 15,318,563 14,151,454 14,795,079
投資活動の部
投資収入 2,401,993 2,405,489 1,793,663 1,704,871 2,247,073
国庫支出金 1,365,814 1,995,001 1,484,023 1,372,117 1,849,867
投資支出 7,187,457 6,458,233 5,666,121 5,983,937 7,270,542
普通建設事業費 7,133,998 6,279,151 5,615,962 5,912,700 7,196,666
投資収支 △ 4,785,464 △ 4,052,744 △ 3,872,458 △ 4,279,066 △ 5,023,469
財務活動の部
財務収入 2,325,280 2,142,000 1,897,986 1,908,254 1,817,478
地方債 0 0 0 0 0
財務支出 13,336,259 14,172,059 12,935,343 11,543,547 11,869,525
元金償還額 5,531,019 5,478,462 5,470,113 5,396,181 5,290,920
財務収支 △ 11,010,979 △ 12,030,059 △ 11,037,357 △ 9,635,293 △ 10,052,047
合計
収支合計 △ 446,117 △ 60,237 408,748 237,095 △ 280,437
実質債務 13,905,043 6,305,274 △ 1,486,063 △ 7,922,665 △ 14,566,287
地方債残高 45,097,709 41,919,247 38,549,134 35,182,953 32,272,433
積立金等残高 34,260,544 38,299,560 42,335,377 45,152,984 48,634,981
フリーキャッシュフロー 10,564,862 11,427,692 11,446,105 9,872,388 9,771,510
 高山市の5年間分を経年比較しています。実質債務はH25、26、27年度とマイナスとなっており、手元資金が債務を上回る「事実無借金」の状況です。H24年度では全国の1割強195団体が実質無借金であると言われます。その中には東北3県の震災向け補助金・交付金を基金に積んでいるところが見られるが、それをのぞいても150団体あると言われます。その150の中には東京23区、及び電源立地市町村が目立つと分析もされています。
 そうした中にあって高山市が実質無借金でいることができるのは、合併特例加算の交付税部分を着実に積み立てられる行財政運営に努力してきたおかげといえます。
 次に経年比較の中で目立った項目を見てみます。地方税はこのところの景気動向から133.8億円まで低下しています。リーマンショック前は約150億円まで行っていたのですが致し方ないところです。逆に地方交付税は150億円台だったものがこの3年間170億円台まで増加していましたが、H27では合併特例加算が縮減に向かっていますので161.1億円に減少。その分地方消費税交付金が満額主雲乳されています。人件費は定年延長の影響でH25は少し低下していましたがH26ではその飯づで72億に。しかしH27では68億円までに。扶助費は依然増加傾向にあります。又、建設費以外の繰り出し金も増加傾向にあります。こちらも特別会計等の要因がうかがえます。行政特別収支は普通建設事業以外の災害復旧等であり、H24、H26はその対応がうかがえるところです。その分投資活動の部の普通建設事業費はH25で56億円まで低下し、H26でも59億円台でした。H27ではこの行政特別収入も支出も増える中で、普通建設事業費も増加となっています。地方創成がらみや景気テコ入れなどの影響が考えられます。財務活動の部ではこのところ地方債は発行せず、臨時財政対策債のみで対応しています。相対的に見てH27までの人件費、扶助費、災害復旧等が増加して収支合計にも影響を与えていますが、現在の償還能力には問題はないと言えます。
債務償還可能年数(年)=実質債務÷行政経常収支
H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
実質債務 13,905,043 6,305,274 △ 1,486,063 △ 7,922,665 △ 14,566,287
行政経常収支 15,429,853 15,587,421 15,340,575 14,536,582 14,819,349
債務償還可能年数 0.90 0.40 -0.10 -0.55 -0.98

1.指標の意義
 債務償還可能年数は、債務償還能力を表す指標で、実質債務(地方債現在高及び有利子負債相当額の合計から積立金等を控除した、実質的な債務)が償還原資となる行政経常収支(キャッシュフロー)の何年分あるかを示したものです。債務償還能力は、債務償還可能年数が短いほど高く、債務償還可能年数が長いほど低いといえる。なお、行政経常収支がゼロ若しくは赤字の場合には償還原資がないことを表しており、財務上の問題があるといえる。
2.留意点
@ 債務償還可能年数が表すもの
 債務償還可能年数は、行政経常収支(償還原資)をすべて債務の償還に充当した場合に、何年で現在の債務を償還できるかを表す理論値です。現実には、中止困難な公共事業がある等の資金の使途の観点から、また、債務は約定償還を原則とする等資金の使用方法の観点から、行政経常収支の全額を債務償還に充当することはないが、債務の償還原資を経常的な行政活動からどれだけ確保できているかということは、債務償還能力を把握するうえで重要な視点である。
A 時系列での比較の重要性
行政経常収支の少ない団体は、債務償還可能年数が極端に長くなることがある。このような団体では行政経常収支がわずかに増減しただけで債務償還可能年数が大きく変動する。このため、債務償還可能年数は過去の推移と併せてみる(時系列で比較する)ことも重要です

 債務償還可能年数はH24年度でみると全国1742市区町村の平均が7.8年(日経グローカル発表)という結果だそうです。これは経常的な収入と支出の差額すべてを借金返済に充てた場合、約8年で完済できるという意味を持ちます。これは上記指標の意義で縷々解説がありますが、とりあ経ず高山市ではマイナスとなっており、債務償還能力には問題がないというところです。
実質債務月収倍率=実質債務÷(行政経常収入÷12)
H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
実質債務 13,905,043 6,305,274 △ 1,486,063 △ 7,922,665 △ 14,566,287
行政経常収入÷12 3,630,459 3,629,355 3,593,196 3,645,357 3,635,677
実質債務月収倍率 3.83 1.74 -0.41 -2.17 -4.01

指標の意義
 実質債務月収倍率は、実質債務の大きさを表す指標で、実質債務が行政経常月収(=行政経常収入÷12)の何ヶ月分に相当するかを示している。実質債務月収倍率が高いほど、行政経常収入に比べて実質債務が大きいことを表している。

 実質債務月収倍率はH24年度指標では全国1742市区町村の平均が11.7ヶ月(日経グローカル発表)です。又195団体が無借金の状況、6ヶ月未満が352団体とされ、6〜12か月未満が727団体だそうです。高山市の場合はこちらの方も良好で、マイナスの表示であり無借金。H24年度で見るとお隣の白川村が0.10と上位3位に位置しています。これも多大な建設投資を必要とする施設整備を広域委託などでかわしているところからくると思われます。
行政経常収支比率=行政経常収支÷行政経常収入
H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
行政収支 15,350,326 15,480,436 15,318,563 14,151,454 14,795,079
行政経常収入 43,565,506 43,552,257 43,118,351 43,744,281 43,628,120
行政経常収支率(%) 0.35 0.36 0.36 0.32 0.34
1.指標の意義
 行政経常収支率とは、行政経常収入に対する行政経常収支の割合である。
行政経常収支率は、行政経常収入からどの程度の償還原資を生み出しているかという償還原資の獲得能力を表すと同時に、経常的な収入で経常的な支出を賄えているかという経常的な資金繰り状況を表しています
一般的には、行政経常収支率が高ければ、債務償還能力は高く、かつ、資金繰り状況も良好であると考えられます。

2.留意点
@ 行政経常収支率が低い場合
行政経常収支率が低水準であることをもって直ちに財務状況に問題があるとは判断できません。単年度の元金償還額が少なく、償還後行政収支が黒字であれば、債務償還能力や資金繰り状況には問題がない可能性があります。債務の償還負担が軽く、かつ、建設投資の必要性が低いことから、資産形成にはつながらない行政サービスへ資金が振り向けられているとも考えられます。また、積立金等を既に十分に保有しており、行政経常収支を多く生み出す必要に迫られていないケースも考えられます。
しかし、0%以下の場合、つまり行政経常収支がゼロ若しくは赤字のときは、財務状況に問題があるといえます。これは、経常的な収入で経常的な経費を賄えておらず、償還原資がない状態を表しているからです。
A 行政経常収支率が高い場合
行政経常収支率が高水準であることをもって直ちに財務状況に問題がないとは判断できない。
単年度の元金償還額が多く、償還後行政収支が赤字であれば、資金繰り状況に問題がある可能性がある。債務の償還負担が重い、又は、建設投資の必要性が高いことから、資産形成にはつながらない行政サービスに十分に資金を振り向けていない結果であることも考えられます。

参考 )債務償還可能年数と実質債務月収倍率、行政経常収支率との関係
債務償還可能年数は、実質債務月収倍率と行政経常収支率に分解できる。したがって、債務償還能力をより詳細に把握するためには、実質債務月収倍率と行政経常収支率をみます。具体的には、債務償還可能年数が長いのは、実質債務が大きいからなのか、それとも行政経常収支(償還原資)が少ないからなのかを把握し、それぞれの要因を探ることになります。
行政経常収支比率は償還原資や経常的な収支をみる指標であり、高山市は34%です。平成24年度比較では40%以上が13団体、30〜40%未満が83団体と発表されています(日経グローカル)。高山市はこのところ安定して30%台で推移しています。しかしこうした状況でもまだ公債費元金償還には52億円を費やしています。
積立金等月収倍率=積立金等÷(行政経常収入÷12)

H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
積立金等残高 34,260,544 38,299,560 42,335,377 45,152,984 48,634,981
行政経常収入÷12 3,630,459 3,629,355 3,593,196 3,645,357 3,635,677
積立金月収倍率 9.44 10.55 11.78 12.39 13.38

指標の意義
 積立金等月収倍率は、積立金等(現金預金及びその他特定目的基金)が行政経常月収の何ヶ月分あるかを示している。
資金繰りに係るリスクに対する備えとして、どれだけの厚みをもってバッファー資金を積み立てられているかという耐久余力を表しています。

積立金月収倍率の平成24年度での1724市区町村平均は4.4ヶ月と発表されています(日経グローカル)。この数値が高いのは震災復興向け補助金・交付金が多い東北3県の自治体の他は、発電施設が立地する町村が高いと言われ、人口規模に比べ固定資産税収入が多いところではこの数値が30〜40のところがあり、三重県川越町などでは45.99ヶ月と報じられています。平成24年度では24か月以上が32団体、12〜24ヶ月が193団体、9〜12か月未満が189団体と発表されています。高山市もH27では13.38となっており、経年比較でみても十分な数値となっています。
高山市:実質債務とフリーキャッシュふろー

H23年度 H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
実質債務 13,905,043 6,305,274 △ 1,486,063 △ 7,922,665 △ 14,566,287
地方債残高 45,097,709 41,919,247 38,549,134 35,182,953 32,272,433
積立金等残高 34,260,544 38,299,560 42,335,377 45,152,984 48,634,981
フリーキャッシュフロー 10,564,862 11,427,692 11,446,105 9,872,388 9,771,610
フリーキャッシュフローは先のH24年度調査では、大阪市が1097億円でトップだったと報じられています。高山市は100億円前後で推移しています。
考察
 これまで総務省方式の財務諸表による分析や、決算統計による経年比較などを通して高山市の財政の分析をしてきました。今回財務省の開発したキャッシュフロー分析を試みました。ストック情報やフロー情報、さらに双方をを組み合わせた情報分析により、改めて高山市の財政余力を確認することができました。5年間の分析ではありますがこのフリーキャッシュフローが安定的に約100億円あるという事の重みは、今後の財政運営に向け様々な可能性を秘めているといえます。
 常々主張させていただいている、「高山市第8次総合計画の10年間は、その後の10年間を見据えたまちづくりへの投資を積極的に実施すべきである」という事の財政的裏付けを改めて検証したのではないかと思っています。
 財政運営から見れば、そうした投資を含めた歳出規模はできるだけ平準化することが好ましいとされています。8次総でも財政計画が示され、毎年のローリングでの見直しも示されているところですが、なかなか数字の裏に込められた個別事業の説明まではされることはまれで、私たちもそうした点を注意深く見ていく必要性があります。
 そうした意味では昨年度行政に投げかけた「総合計画における見直しは、3年目に検証を行い政策と財源の双方で次の後期計画の見直し工程に含めてPDCAサイクルをまわすべきだ」ということを、今後も主張していきたいと思います。
 「観光まちづくり」いう事も主張してきました。文化・商業政策と都市計画との連動が観光まちづくりであるという主張です。次の10年へ向けての先行投資を積極的に実施し、未来のまちづくりに活かすべきであると・・・
 
財政健全化判断比率とキャッシュロー計算書による財務指標の比較
両指標の目的等に違い
キャッシュフロー計算書による財務指標 健全化判断比率
目的 貸し手としての償還確実性の確認 地方公共団体の財政の健全化
視点 ・債務償還能力(長期的視点)
・資金繰りリスク(短期的視点)
・財政の健全化に関する比率の講評
・財政の早期健全化、再生
指標 ・行政経常収支率
・積立金等月収倍率
・実質債務月収倍率
・債務償還可能年数
・実質赤字比率
・連結実質赤字比率
・実質公債費比率
・将来負担比率

指標の比較
@フロー指標とストック指標
キャッシュフロー計算書による財務指標 健全化判断比率
フロー概念の指標 ・行政経常収支率 ・実質赤字比率
・連結実質赤字比率
・実質公債費比率
ストック概念の指標 ・積立金等月収倍率
・実質債務月収倍率
・将来負担比率
フローとストック概念を組み合わせた指標 ・債務償還可能年数
Aフロー指標の比較
キャッシュロー、財務状況把握の財務指標 健全化判断比率
行政経常収支率 実質赤字比率 連結実質赤字比率 実質公債費比
意義 償還原資の獲得能力と経常 的な資金繰り状況を表す。 一般会計の財政運営の悪化の度合いを表す。 地方公共団体としての財政運営の悪化を度合いを表す。 実質的な公債費が在世御負担となっている度合いを表す。
特徴 ・
留意点
実質債務月収倍率などのス トック概念の指標とあわせ、 債務償還能力及び資金繰り リスクを把握する。
地方債の増加や基金の 取崩しに留意。
個別の事情を踏まえた算定。

[例]  公営企業の資金不足額について、解消可能資金不足額(計画 赤字を複数の算出方法から選択)を控除。
実質的な公債費負担を測 るため一定の特定財源を 分子から控除。

Bストック指標の比較
キャッシュロー、財務状況把握の財務指標 健全化判断比率
積立金等月収倍率 実質債務月収倍率 債務償還可能年数 将来負担比率
意義 資金繰りリスクに対する 耐久余力を表す。 収入(月収)に対する債
務の大きさを表す。
債務償還能力を表す 将来、財政を圧迫する可能 性の度合いを表す
特徴 ・
留意点
換金性に問題のある積立 金等(出資金、土地、貸 付金に運用している基金 等)をヒアリングに基づ き控除。
債務の大きさは、金額の 大きさでなく、収入規模 の水準との比較で分析。

将来負担比率と類似概念。
過去の推移と併せて分析。
 [例] 債務償還可能年数の分母となる行政経常収支が少ない場合、 当該収支の僅かな増減で債務償還可能年数が大きく変動する
個別の事情を踏まえた算定

 [例] 会計等において実質的に負担が見込まれる地方3公社等の負債について、標準評価方式又は個別評価方式のいずれかを選択して算定